決めたのは・・・。
よく聞かれることですが、「どうしてこの仕事をしようと思ったんですか?」
切っ掛けはいくつかありますが、最終的に決めたのは某大学病院でのことでした。
その時、私は某大学病院の口腔外科からの依頼でエピテーゼを使用している患者様のケアをお手伝いするために訪れていました。仕事が終わり休憩しているところへ准教授がいらして、「この後、形成外科で見ていただきたい患者様がいるのですがいいですか?」とのことでした。その日は現地に宿泊予定でしたので、「勿論いいですよ。」と承諾して形成外科へ行くこととなりました。行った先には15歳の女の子がちょこんと椅子に座っていましたが、その顔には複数の縫合痕があり、一部にはまだ抜糸前の糸が残っていました。
医師の説明によると、3歳の時に交通事故に遭い顔全体に大きな怪我をしたそうで、何度も形成外科手術を繰り返し今回が最後の手術だったそうです。確かにいくつもの縫合痕がありますが、形に歪さはなくパッチリと愛らしい目元と綺麗な歯並びの口元が印象的なお嬢さんでした。担当医は「今回が最後の手術だが、年齢的にもお年頃で傷跡を気にしていると思うので、結果的に残ってしまった縫合痕を何とかメイクアップでカバーできないか?」とのことでした。カバーする方法はいろいろありますが、年齢的に考慮しても如何にもメイクアップをした状態は好ましくありませんので、出来るだけピンポイントで縫合痕の色の変色だけを調整し全体のバランスをとる方法を指導しました。
メイクアップ後、彼女は鏡を覗き込みながら「ない!な~~い!傷が無くなったあ! お母さんが来るまで顔を洗わないでいてもいい?」と言って大喜びです。そばで見ていた看護師や担当医も彼女の喜びように思わず目頭を押さえるほどでした。
その後、口腔外科へ戻ると口腔外科の教授が准教授に言った言葉は「牧野さんを形成外科へ連れて行ったんだって?口腔外科で呼んだのになんで形成外科へ連れて行ったのか?形成外科で必要なら形成外科で呼べばいいじゃないか?」この時、それまでも少しづつ感じていた医学部と歯学部の間の高い壁を改めて感じることとなり、私がこの仕事に本腰を入れることになった大きな切っ掛けです。
そう。この高い壁は私達には不要であり、無くさなければならない壁だと感じたからです。