エピテーゼ/リカバリーメイクが救ったもの①:元気に育ってくれただけで

エピテーゼやリカバリーメイクは、怪我をされた方、体の一部を失った方にとって、その後の人生を前向きに生きる上でとても励みになる存在だと信じています。
しかし「命さえ助かれば…」という倫理観が強い昨今の日本に於いて、その力はそれほど認知されていないかもしれません。
ここではエピテーゼやリカバリーメイクで救われた人や印象深かった出来事を綴っていきたいと思います。
とある患者様のお話です。
20代の女性で早朝、夜行バスに乗って地方からわざわざ東京の私たちの元へ来て下さった方がいました。
内容は「胸の傷痕を隠すためのリカバリーメイクを教えてほしい」という事。
その方は先天性の心疾患を患われて、生まれて直ぐ開胸手術を施されたことがありました。
健康上は問題なくとても元気に成長することができましたが、どうしても襟ぐりの深い洋服や水着を着ると手術痕が見えてしまうので、それを隠したいという事でした。
傷痕が目立たなくなるメイクを教えて差し上げて、世間話をしていると、
今回の訪問についてはお母様には事前にお話になっておらず、その日の朝に電話でお伝えになられたというのです。
「年頃になってみんなに海とかに誘われてもこれまでは傷が恥ずかしくて行けなかった。でも、そこを隠すやり方を教えてくれる所を見つけたから明日東京に行って来るね」と。
するとお母様は、
「ただ元気に育ってくれたからそんなことはもう気にしてないと思っていた。でもそれを気にしてあげられなくて、気付いてあげられなくてごめんね」
そう言って電話口で涙を流したといいます。
あぁ…娘は病気を持って生まれながらもなんとか元気に育ってくれた。
でもあの子はやっぱり女の子だから。そういう事がすごく気になっていたんだ。だから今日、私に隠してまで思い切って東京まで行ったんだ。
そんなお母様の気持ちも娘様の気持ちもどちらもよく分かるので、私も胸にこみ上げてくるものがありました。
病気や怪我をされた方が手術やその他治療でなんとか命を繋ぎ止める。
エピテーゼやリカバリーメイクは、そこから先の幸せな人生を繋ぎ止める力があります。
※傷痕が残る事を一概に不幸と捉えるわけではございません。
わたし達の発信している技術はこのように、多くの方々の価値観や人生に深く作用するものだと感じています。
この母娘が今もどこかで笑顔で暮らしている事を心の片隅でいつも祈っています。